むかし練習で書いた没・短篇小説

もしも三十六歳引きこもり独身女がフリースクールに入ったら むかし練習で書いた没・短篇小説

もしも三十六歳引きこもり独身女がフリースクールに入ったら

さようなら かつて窓があった辺りで、大きな崩落が起こった。畳まずに積み重ね続けていた段ボールコーナーがとうとう決壊したらしく、脱ぎ捨てていたジャージやペットボトル、ビールの空き缶、コンビニ弁当の入ったゴミ袋などの上に、無慈悲に色、大きさ様々の段ボールが落ちてきた。崩落は数秒ほどでおさまったが、もはや…
もしも息を止めている間だけ透明になれたら むかし練習で書いた没・短篇小説

もしも息を止めている間だけ透明になれたら

もしも息を止めている間だけ透明になれたとして、君なら何をするだろうか。 初日 さっきまで見ていたすさまじい悪夢の断片は、目覚ましのアラーム音が一回、二回と鳴る度に失われていった。黒崎は掛け布団を乱暴にはねのけてスマートフォンのアラームを止めた。八時十分。アラームの設定時刻は入社した頃から十分ずつ後ろ…
もしも相席屋で○○と相席になったら むかし練習で書いた没・短篇小説

もしも相席屋で○○と相席になったら

相席屋 読者諸君は相席屋という形態の飲食店をご存知だろうか? 女は無料で、その店の好きなものを好きなだけ食べることができる。なぜなら男が、料金を払うからである。男は出会いを求めてその飲食店に出向き、女と相席して食事と会話と刹那的な恋の駆け引きを楽しむ。女は無料で食事をする代わりに、どんな相手でも相席…
失われたチョコレートの記憶 むかし練習で書いた没・短篇小説

失われたチョコレートの記憶

失われたチョコレート 許さない。絶対に許さない。 小潟(おがた)はあまりの怒りに身体の震えが止まらなかった。先ほど怒鳴ったときに舌を噛んだのか、口の中に鉄臭いの味が広がっている。 このチョコレートの為に、俺がどれだけの時間と労力を割いたと思っているのだ。 怯えた顔で自分を見上げる目の前の女が、まるで…
一日一殺ブログ むかし練習で書いた没・短篇小説

一日一殺ブログ

最初にカタツムリが話しかけてきたのは、今から十年以上も前のことだ。十年という時間は、感情の記憶を摩耗させるのには充分な時間だ、と柳井は思った。 「あと五分でキミは死ぬ。最後に何をしたい?」 柳井の前には手足をガムテープで縛られ、飛び出しそうな眼球から涙を溢れさせている惨めな男が横たわっている。男が顔…
乾風 むかし練習で書いた没・短篇小説

乾風

逃走 フォンフォンフォン、と唄うような音を上げ、小舟はものすごいスピードで進んだ。動力源はヴァンパイアにしか起動できない乾風(あなじ)という名のエンジンだ。つまり乾風を搭載した船はヴァンパイアにしか操船できない。その知識すら持ち合わせていない多くの人間奴隷たちが、脱走しては港に停泊中の小舟で捉えられ…
黒ウサギ君主論 むかし練習で書いた没・短篇小説

黒ウサギ君主論

黒ウサギ 「なーキツネ、お前って女なの? 男なの? ちょっとで良いから確認させてくんねー?」 「触るなっ」 「いってーな。良いだろ、ちょっと確認するだけだって」 水城(ミズキ)はパンダの仮面を付けた少年の手をはねのけた。でっぷりと太っていて、パンダの仮面が計らずともしっくりとフィットしている。水城を…
猫と宅急便 むかし練習で書いた没・短篇小説

猫と宅急便

お届けもの 芋嵐がびゅうびゅうと吹き、窓ガラスを鳴らしている。窓は全て曇りガラスになっているので、タワーマンション四十一階からの絶景はベランダに出なければ拝めない。部屋の床には脱ぎ捨てた服やポテトチップスの袋、ブー助の抜け毛が散乱している。 そろそろ、週に一度の清掃業者が来る頃合いだ。 郁美はアーロ…
お天気妻 むかし練習で書いた没・短篇小説

お天気妻

起 「雨が降ってきたわ。行かなきゃ」 美由紀はそっと、和也の裸の胸を押した。ふっくらとした珊瑚朱色の唇はつやつやとキスの余韻を残している。 「もう少しだけいいじゃないか。せっかく注文したシャルドネだって、まだ栓も開けてない」 「ごめんなさい」 和也が言い終わるのも待たずに、美由紀はきっぱりと謝った。…