「リタイア後は田舎で農業」は自由でも優雅でもない。東京以上にガチガチの管理社会!

カテゴリー 読んでよかったレベル20以上の本たち

どうも、白戸です。

 

久しぶりに国産の小説を読んだのでレビューします、、、というだけではつまんないので、今回は、小説の本筋ではなく、題材の一つとなっている「Iターン就農」の意外な実態について書きます。

 

宇佐美まことさんの「入らずの森」という作品を読みました。

おそらく読者がどの主人公に感情移入するかで全く感想は変わってくるタイプの作品と思いますが、個人的には、、、

「とても後味の悪い、でも強烈に引き込まれる」作品でした。

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おそらく多くの都市部在住の人は、作中の主人公の一人「隆夫」と同じく、こんな幻想を抱いているのではないでしょうか。

ここは隆夫にとって楽園なのだ。

ボスも、売上第一主義の上司も、傍観者然として指示に従わない男性の部下もいない。ここにあるのは善良な田舎の人々と、手を掛ければ掛けるだけそれに応えて育つ作物、空と山と水、美しい四季。

そうだ。誰にも邪魔はさせない。やっと手に入れた人間らしい生活なのだから。

 

 

 

 

 

 

“入らずの森” 概要

宇佐美まことさんの「入らずの森」という作品で、四国山中の「尾賀」という集落が舞台のホラー小説。

以下、一部ネタバレを含みます。作品をきっちり味わいたい方は、先に本を読んでくださいね!

 

舞台

尾賀は平家の落人伝説(平家の人たちが源氏から逃げてひっそり暮らしていたが、地元民に裏切られ、全員殺された)の残る不入森(いらずのもり)で過去に二度、陰惨な殺人事件が起きている。

 

人物

主人公は三人。

全員、東京で挫折して田舎にやってきたワケありキャラです。

 

杏奈:金髪の女子中学生。両親から関心を持たれず、放置されてグレた典型的な不良少女。両親の離婚で父と母のどっちと暮らすか選べと言われ、どっちも断って超疎遠だった祖母の家にやってきた。でも一見サバサバした祖母との生活はうまくいき、徐々に心身の健康を取り戻していく。

 

 

圭介:中学教師。元は陸上でオリンピック候補(ほぼ出場確実なレベル)にまで昇りつめたアスリートだったが、選抜大会で後輩に足を引っ掛けられて転倒。オリンピック出場どころか選手生命を絶たれ、絶望のうちに仕方なく教師になった。当然、教師としての自信はなく、片田舎の教師として十年一日の日々を送る事にも不満を抱いている。

 

隆夫:早期退職したIターン就農者。機械いじりが好きで遊園地の乗り物の保守点検員をやっていたが、平成不況で遊園地が閉園した煽りを受けて会社もバラバラに切り売りされ、最終的にスーパーの売り場主任に。そこで職場いじめにあい、早期退職。全財産を尾賀の田んぼと家の購入につぎ込むも、尾賀でも周囲に馴染めず孤立する。

 

ちなみに、この三人の中で私が最も感情移入したのは隆夫。職場いじめのシーンや妻からの励ましの一言をマイナスに受け取ってしまうシーンなど、あまりの的確な心理描写にゾッとしましたね。もしかしたら著者の実際の経験に基づいているのかも。

 

「リタイア後は田舎で農業」はそんなに優雅なもんじゃないかもしれない理由

 

さて、ストーリーの本筋は小説を読んでいただくとして、私が「マジか〜」と思った「リタイア後は田舎で農業」の実態について書こうと思います。

 

「自分の田んぼだから自分の好きにして良い」は大間違い

 

息子や孫たちに経験させてやりたくて、田植えを手植えでやろうと計画していた隆夫だったが、結局山城から田植え機を借りて済ませた。手植えを諦めたのは、息子一家に拒まれたからというだけではない。

田植え時期から始まる灌漑用水の管理が厳密になされるため、手植えでのんびり植えていたのでは他の田の所有者に迷惑がかかるとわかったからだ。

言われてみれば当たり前なのですが、田んぼって、水路で他の周りの田んぼと繋がっているんですね。なので、田んぼに水を入れる時期は他の田んぼと足並みをそろえないといけないのです。

さらに!

 

「本を頼りに新しいやり方を実践!」は反感を買う上、集落のやり方にフィットしない。

無農薬にこだわりたい隆夫は、苗と苗の間を「田ぐるま」と呼ばれる手押しの除草機を押しながら往復する作業を続けた。(中略)田作りのほうもなるたけ有機栽培と決めてから、隆夫は何冊かその方面の本を買って勉強した。この周辺にはそんなやり方を実践している農家はないので、その文献だけが頼りだ。

いかにも都会から出てきた頭でっかちの人間(私もこの類)がやりそうです。

「そんなに農薬使いたくないんじゃったら」と山城が代わりに教えてくれたのは深水栽培という方法だった。(中略)深水にすると、発芽してきた雑草は酸素不足でとろけて枯れてしまうのだそうだ。

なるほど。ありがたいアドバイスですね。やはり田舎の人は優しい!と思ったのもつかの間。。。

 

隆夫の田の畦に気難しい顔をして宮岡が立っているのが見えた。嫌な予感がした。

「なんでこんなに、あんたの田だけに水を入れるんや」

案の定、宮岡は隆夫の顔を見るなり言った。

「ここに堰を嵌めたら、下の田に水が行き渡らんじゃろうが」

午前中、隆夫が水路に嵌め込んだ堰板を宮岡は指差している。

「いや、深めに水を入れて、雑草を枯らそうと思いまして……」

「そらあ、あんたが除草剤を使わんからじゃろう。いまの時期はどこの田も水がいるのに、一番上のあんたの田だけがこんなに水をとってしもうたら、どうもこうもならんな!」

水量なども「水利組合」が細かく取り決めて運営しているとのこと。

隆夫はアドバイスに従っただけなのに、怒られてしまいました。先輩の言う通りにやったら上司に怒られた、本当は弟がやった悪戯なのに誤解されて自分が怒られた、みたいな。

ちょっとコミュ症の気がある人なら誰でもあると思いますが、これはかなり悔しいですよね。

 

「俺は無農薬にこだわりたい」は通らない。

白い煙のような農薬にまみれている人物は宮岡辰巳だ。そう認識した途端、「えっ?」と思ってブレーキを踏んだ。宮岡が農薬を散布しているのは、隆夫の田んぼなのだ。(中略)

「いやあ、薬が余ったけんな。あんたんとこも消毒しといたげよ、思うてな」

「ちょっと待ってくださいよ」隆夫は慌てて言った。

「今年一年は、勉強のつもりで無農薬でやってみようと……」

宮岡ははっきりと嫌悪感を表した。

「悪いことは言わん。そんなん、やめとけ。農薬や化学肥料を使わずにやれるんなら、わしらはとっくにそれ、やっとるわ。このあんたのやり方なら、資料にしかならんようなクズ米しか採れんよ。農協へ持っていって米選機にかけたら、全部網の目から落ちてしまうわ」

「それならそれでかまわないんですよ。どうせうちは僕と家内の二人だけなんだし。せっかく自分で好きなように作るんだからーー」

「何であんたの趣味にわしらが付き合わないかんのじゃ」

(中略)

「きれいごとじゃのうてな、農家も収量というもんを計算せないかん」

当たり前ですが、農家の人は生活がかかっていますから、「収量」つまり会社でいうところの「数字」が全て。

おじいちゃんおばあちゃんが稲刈りしている風景とか見るとのんびりしているように見えますが、実際はかなりシビアに数字と向き合っていることがわかります。

そういう意味では、会社と全然変わらないのかもしれませんね。田舎暮らしに、安易にスローライフを求めすぎるのも考えものです。

 

長年、農業一筋でやってきた人たちには、もちろんプライドもあるわけで。都会からぽっと出てきて、有機農法とか言って田んぼを雑草だらけにしてたら、そりゃ笑い者にされますよね。。。

 

実際、こういう問題って地方で頻発しているみたいで。田舎暮らしを夢見て隆夫のように脱サラ&Iターン就農しみたものの、「うまく馴染めず」引き返してくるみたいなケースって、何が原因なのかあまり具体的に考えたこともなかったのですが、そういうことかーと。

あくまでこれは小説の中のワンシーンですが、妙にリアルで納得してしまいました。

「あんたがやっとるのは、農業ごっこや」(中略)

「私は遊びで農業をやっているわけではありませんよ。(中略)ただ、せっかくこうして家も畑も買って移住してきたからには、妥協せずに自分の理想の農業をやりたいと思っているんです」

「そんならどっかもっと山奥か、無人島にでも行ってやるんやな。その『理想の農業』とやらを!」(中略)

「有機農法じゃ、無農薬じゃとお題目を唱えてええ気になっとるのは、あんただけじゃろ。そのせいで害虫や病気にやられたら、どうしてくれるんや。あんたはここへ住み着いてうまいことやっとると思うとるかしらんが、皆、迷惑しとるんや。この土地のやり方に馴染めんのやったら、さっさと出て行ってくれ!」

 

「都会の管理社会にうんざり→田舎で農業」は失敗する

さて、果てしない残業と上司からのいびり、出世競争に疲れたサラリーマンは「田舎で農業」と聞くと

「あ〜、いいなぁ。毎日たっぷり寝て、野菜を育てて、綺麗な空気を吸って、美味しいものを食べて、夜はのんびり虫の声を肴に晩酌かぁ」的な幻想を抱きがちですが、案外、そんなに優雅なものじゃないかもしれません。

 

田舎だろうが都会だろうが、人のいるところには「組織」が存在するし、そこから逃げることはできません。だから、都会でうまくやれいからと田舎へ行っても、結局はこの隆夫のように似た状況になるのかもしれません。

田舎暮らしを否定するわけではありませんが、こういう大きな決断をマイナスの理由(都会が嫌だから、人間関係に疲れたから、とか)で下すのは結構ギャンブルかも。

 

私も経験ありますが、辛い時って逃げたい気持ちが強すぎて冷静な判断ができません。その選択にマイナス材料があるとしても、見たくない、見ようとしない。「とにかく、ここじゃない場所へ行きたい!」みたいな。

でも、土地を買うとか引っ越すとかは、貯金があまりない人の場合「背水の陣」です。視野を広く持って(他に選択肢はないのか?)、入念なリサーチ、冷静な判断を心がけましょう。

 

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<追伸>

あと、作中に出てくる隆夫の「職場いじめ」のシーンが強烈です。職場で辛いことがあったけど、トラウマを克服したという自信のある方は、ぜひ読んでみてください。

めちゃくちゃ嫌な事を思い出しますが、同時に、「あー自分もあの時はそうだったな」と痛く共感できます。そしたら、その辛い状況から脱却、もしくは克服できた今の自分を誇ってくださいね。

それでは!

 

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