「アメとムチ」は時代遅れ?人の行動を支配しているものの正体とは

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生物は常にある刺激に特定の方法で反応する。よって、刺激を制御すれば、行動を制御できる。報酬と罰で条件づけすれば、生物はどう行動すべきかを正確に学習する。

これは世界の企業やビジネススクールで扱われている行動主義の考え方で、今でも、望むことを人々が正確にこなすようにする魔法のインセンティブの探索は続けられています。しかし、現代心理学の分野では行動主義はすでに時代遅れとなっています。

 

「アメとムチ」は時代遅れ

 

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例えば、多くの雇用主が採用している古典的なインセンティブ、「時間外手当」。時給で働く従業員にもっとたくさん仕事をしてもらいたいなら、時間外手当を払うべきでしょうか?

必ずしもそうとは限りません。

収入でコントロールされている(お金が足りず、生きる上でお金を最も求めている)労働者であれば残業量を増やすでしょう。しかし、既に十分な稼ぎがあり、仕事よりももっと重要な優先事項があると感じている労働者ならそうとは限りません。残業を増やす人もいるでしょうが、逆に労働時間を減らす人もいるでしょう。

彼らはある程度は収入でコントロールされますが、その後は家族と過ごす、副業を行う等、他の重要なことに自分の時間を使います。時間外手当を上げれば、彼らの「目標収入」により早く到達できるようになるため、逆に彼らが仕事に費やす時間は減ることになります。

つまり、行動主義によって「人がなぜそれをするか」を解明することは出来ないのです。

 

人間の行動を決定付けるのは「設定温度」と「環境」

 

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私たちがコートを着るのは、周囲の寒さに強制されたからではなく、寒いと感じてそう感じたくないと思ったからです。目に入ってくる光が明るすぎるなら、日陰を探す、窓のブラインドを下げる、サングラスをかけます。

体内でメラトニンが作られるのも同じで、特定の閾値に達するとその人間は眠り始めます。血糖濃度を管理するシステムも、血糖値が許容範囲内にある限りは何も怒りません。しかし範囲を逸脱すると、制御下に戻すために、インシュリンを放出して余分なブドウ糖を体内細胞に運びます。

 

実際の人間の行動は、サーモスタットに似ています。そう、コタツとかエアコンとか炊飯器とかに付いてるやつです。

サーモスタット自体はとても単純なシステムで、センサー、設定温度、スイッチで構成されています。センサーは周囲の温度を測り、温度が所定の範囲内にあればサーモスタットは何もしません。設定温度を下回れば、暖房のスイッチが入り、そのうち設定温度を超えれば暖房のスイッチが切れる。

心理学では「認知制御」と呼ばれています。人間も含め生物は基本的に、非常に複雑な認知制御システムと言えます。私たちは許容できる範囲内で、世の中に対する認知(エアコンでいうところの設定温度)を維持するよう行動するのです。

 

人がエアコンと違うのは、最終的に取る行動は画一的なものではない点です。エアコンは室温が設定温度の範囲から外れたら「暖める」だけですが、生物が最終的にとる行動はその時点の環境によって左右されます。

嵐の船の上で、樽は物理的な力に従ってただ転がっていきますが、甲板上の人間は「真っすぐ立つ」という状態を保ち続けるために、バランスを変えたり、動いたり、あるいは手摺につかまったりと様々な行動を取ります。倒れたら、なんとかして立ち上がろうともするでしょう。嵐の中の人間に、自分の足で立つために取る行動をあらかじめ決めておく能力はありません。

つまり、変化が起こった時、行動はその環境の中で変化に合わせて調整されるのです。

 

行動を変えたければ「設定温度」か「環境」を変えよう

生物は基本的に複雑な「認知制御システム」です。

サーモスタットの場合、暖房を切りたいなら設定温度を下げるか、部屋の温度を上げれば良い。人間の場合も同じで、「設定」を意識的に再定義したり変更したりするか、「環境」を変えれば自分の行動も変わるのです。

 

エアコンで言うところの「設定温度」とは何を指すのか?

エアコンで言う設定温度のことを、心理学では「参照レベル」と呼びます。

部屋の掃除について異なる参照レベルをもつAさんとBさんがいるとします。

Aさんは流しに汚れた食器があるのは問題だと思います。Aさんの認知制御システムでは汚れたお皿はすべて「制御できていない状態」であり、その状況を正すための行動を促します。

Bさんにとっては、流しが溢れ返れば食器を洗うために多少のエネルギーを使うけれど、そうなるまでは「制御できている状態」です。当然、Bさんは汚れた食器が流しに一つあっても何もしません。

参照レベルが異なれば、行動も異なるのです。

 

人を現状に縛り付ける「エネルギー保存」

人は一般的に、参照レベルを逸脱しない限り、行動を起こさないようにしてエネルギーを保存します。人類が槍をもってマンモスを追いかけていた時代の名残として、脳はある程度の呼びエネルギーを保つように促し、後からエネルギーが必要になる事態に備えているからです。エネルギー保存とはつまるところ、苫米地英人さんがよく使うホメオスタシス(恒常性維持機能)のことです。

例えば、自分の体重、健康、体格が適切な状態にあると思っている人は、食習慣を変えたり、自発的に運動を始めたりしません。人間関係に満足していれば、社交スキルを向上させるためにコミュニケーションスクールに高い金を払って通ったり、スマホ依存症になったり、友達の環を広げるためにコンパに参加しまくるようなこともしないでしょう。

 

エネルギー保存は、一部の人々が、たとえその立場が素晴らしいものではないと知っていたとしても、何十年も将来性のない仕事に留まる理由の説明となります。

 

 

その仕事が適切に行われていれば、請求書は支払われ、その仕事が期待を裏切るほどストレスになったり、不満を漏らしたりすることもない。人々は昇進したり、別の仕事を見つけたり、新規事業を立ち上げたりするためにわざわざ頑張ることもありません。

彼らの参照レベルが何らかの形で逸脱して始めて努力するのであって、期待が裏切られない限りは何もしないのです。

 

参照レベルを変える情報源にアクセスする

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良書、雑誌、ブログ、ドキュメンタリー番組、身近な競争相手。なんでもいいのですが、「可能なこと」に関する自分の予想を打ち破るなら、それはあなたにとって価値のあるものです。

それまでは非現実的で不可能だと思っていたことを、他の人が実際に行っていることがわかれば、非常に有用な形で参照レベルが変わります。大事なのは、自分が望んでいることが可能だと知ることだけであり、そのための方法は自然に見つかるものです。

 

環境は、目的と計画を簡単に打ち負かす

 

もし「今日から肉は一切禁止。完全菜食主義を実践しなさい」と言われたら、マジ無理、自分にはとてもできそうもないと思いますよね。一年間、実践に成功した人がいたら、その人の意志の強さに驚きますよね?

正直に告白すると、実はまったく難しくはなかった。秘訣は、意志の力に頼って、ステーキを料理する、ペパローニ・ピザを注文したい衝動と闘うのではなく、自分たちの選択を支える環境の構造を変えたことにある。

食べたくない食品は全て捨てて、より健康的だが味もよい食品に入れ替えた。スーパーマーケットに行く代わりに、小さな自然食の店に行った。ステーキハウスに行くのを止めて、菜食主義や完全菜食主義の料理に特化しているレストランに行き始めた。

その結果、一貫した行動をとるための選択において、意志の強さはたいして必要なかった。空腹になればリンゴ、ニンジンを食べたが、ただそういう食材が冷蔵庫の中にあったからだ。ピザを注文したり、ステーキを買って料理したりする方が大変だからやらなかったまでだ。

この例は、環境が行動における最大の決定要因であることを意味しています。行動をうまくかえたいなら、意志の力で直接的に行動を変えようとしてはいけません。

 

行動に影響を及ぼしたり、行動を支えたりする構造を変えた方が良いのです。そうすれば自動的に行動は変わる。アイスクリームを控えたいなら、第一に買わないことなのです。

わずかな摩擦を加えるか、特定の選択肢を完全に取り除けば、取り組もうとしていることに、はるかに集中しやすくなります。

 

 

・参考文献

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