ONE PIECE のキャラのセリフが心にガツンとくる理由
人が”フィクション”に心を動かされる理由
マンガでも小説でも、「良い作品」では必ずと言っていいほど、キャラクターの行動原理やセリフの端々に、作者の思想、価値観が色濃く反映されているものです。
人は、”自分と全く無関係なもの”に、心を動かされることはありません。ただ机に転がっているペンを見ても、感動しませんよね。
しかし、そのペンが「42歳、小太り眼鏡の窓際族だった冴えないサラリーマンが、娘の結婚祝いのために何枚も企画書を書いて上司にどやされながらも開発したアイデアヒット商品」だと思うと、そのペンはあなたにとって、もう「ただのペン」ではないのです。
上記のエピソード(ドラマ)には、いくつかのフックが含まれています。
“42歳”、”眼鏡”、”窓際族”、”冴えない”、”サラリーマン”、”娘”、”結婚”、”何度も企画書を書きなおす”、”上司にどやされる”
ふれらのフックに引っかかる点、つまり「共通点」が多いほど、人はそのエピソードに共感し、心を動かされるのです。
あなたが42歳だったら。あなたが冴えないサラリーマンを父にもつ娘だったら。あなたが結婚したばかりだったら。あなたが何度も企画書を書き直したり、上司にどやされていたことがあったら。あるいは、あなたでなくても「あなたに近しい近しい人」かもしれません。
ペンを見ただけで、深夜のオフィスで一人企画書をかくサラリーマンのイメージが克明に浮かび、それが自分もしくは近しい人と重なることで、心を打たれるんです。共通点とは、つまり「自分との関連」です。
人は、自分と関連が強いものに、強く心を動かされます。
読者が小説やマンガで心を動かされるのは、その作品が読者にとって「(理想、もしくは現実の)自分との関連」が強いから。”フィクション” と “リアル” が地続きだからです。
小説やマンガを読みながらキャラクターに自分や近しい人を重ねたり、あるいは作家志望の方なら作者自身に自分を重ねます。
「この作者はどんな人生を望んだのか」「なぜこの作者は、サラリーマンでなく作家や漫画家になったのか」「売れない下積み時代には自分にこのセリフを言い聞かせて、頑張っていたのかな」などと無意識に想像しながらお話を読むんですね。
作家や漫画家の価値観に近しい人、例えばサラリーマンしながらも「人生コレで良いのか」と迷っている人、わたしのようにいままさに小説家を目指して下積み中の人ほど、ONE PIECEのキャラのセリフに心を揺さぶられてしまうんです。
フィクションの世界にのめり込みやすくなります。現実の世界とは本来無関係であるフィクションの世界のキャラクターのセリフに、心を打たれてしまいます。
ONE PIECEのキャラのセリフがガツンと胸に刺さるのは、アナタが弱くて不自由だから
ONE PIECE にはたくさんの名言が出てきますが、それを名言だと感じるのは、あなたにとってそれが(現時点では)「当然のこと」ではないからです。ウォールストリートの金融マンは「Time is Money」に共感はしても、感動しません。彼らにとって、それは常識だからです。
「憧れ」の生き方だったり、「欲している」ものに、人はアンテナを伸ばします。それが、「フック」となります。フックには、「現実の自分」と「理想の自分」の二種類あります。
「現実の自分」の方のフックにかかると、共感する。
「理想の自分」の方のフックにかかると、感動する。
ONE PIECEで人気の高いキャラは、みんな自由で強いです。コレ!と決めたら真っすぐに突き進む。迷いもあるし負けることもあるけど、決してくじけない。ルフィやゾロは自分を卑下しないし、サンジは死んでもレディは蹴りません(笑)ナミやロビンも、婚活しません。
もしあなたが人を感動させる作品を作ろうとしているなら、闇雲に「自分の好きなこと」を描くだけでなく、少し冷静にターゲットを見据え、ターゲットに合わせたフックを作中に効率的に配置する戦略も、ひとつの有効な手法となるでしょう。